言い方キツくてすみません。

編集者ときどきライター。仕事以外でつらつら書きます。

Creepy Nutsの「未来予想図」で

1月21日にWWW Xで行われた、SANABAGUN.初となる主催イベント「VS SANABAGUN. Round 1」に行ってきました。

 

ゲストは、tofubeatsとCreepy Nuts。ヒップホップというつながりがありつつも、三者三様ちょっとフィールドの異なるアーティストの共演。観客の反応含めて、非常におもしろいイベントでした。

 

なかでも、個人的に印象深かったのはCreepy Nutsのステージでした。

ようやく生で観られたからというのもありますが、30分強の持ち時間の中で披露した曲は、わずか3曲。普通のライブだったらありえない少なさではないでしょうか。 

もちろん、ただダラダラMCしていたわけでもなく。R-指定の十八番“聖徳太子スタイル”(※お客さんから複数個のお題をもらって、即興でやるラップ)あり、DJ松永の童貞いじりとかターンテーブル裁きありで、2人の魅力や観客が期待している要素がぎっしり詰まった楽しい時間でした。

 

そんな風に盛り上がりまくった会場で、ふとR-指定のMCが始まります。以下は、その一部です(冒頭だけ間に合わず)。 

​日の目の当たらん文化かったやったんすよ、フリースタイルってのは。

まぁ、ラッパーの中でもヒップホップの中でも、めちゃめちゃアンダーグラウンドな文化。めちゃめちゃ好きモノたちがやる文化。
やってるようなやつは変人というか、まぁ日の目も当たらんし、なんの得があんねんと。そんなような場所やったんすよ。すごい局地的なね。

 

そこにパッとスポットが当たって、まぁそっから羽ばたいて行く人も多くなったし、まったく今までバカにしてたような同業者の人とかも、なんかこぞってバトルに参加したりとかバトルのイベントに行ったりとか。
で、全然「ヒップホップ(笑)」とか「ラップ(笑)」って言って、まったく相手にしてくれへんかった別ジャンルの音楽の雑誌やったりが急に取り上げたりとか、メディアがバーッと飛びついてきたりとか。

 

そういうことがいっぱいあって、まぁ正直、俺は結構混乱してるんです。

まぁ、「やったー俺らの時代や!」「やった、ウェイヨー!」ってなってる人も、もしかしたらおるかもしれません。

でも、俺みたいに全然日の目の当たらんときから、「フリースタイルって、バトルってダサいなぁ」ってバカにされながら、ひいては、ヒップホップ好きって言ったとき、日本語ラップ好きになった中学生・高校生の思春期のときに、「ラップ(笑)」「日本語ラップ(笑)」って友だちに結構バカにされたときから、好きでどうしようもないから、自分が一番かっこいい!と思う音楽やから…つって、やってきた俺からしたら、急にこう世の中に手のひらを返されたような、なんかすごい混乱してて。

 

ん? これは喜んでいいのか? いや、でも冬の時代が長かっただけに、全部疑ってかかってしまいます。悪い癖で。

どうせこのブームが終わったら、みんなおらんよになるんやろとか、みんなまたバカにされて、冬の時代が来るんやろ。今だけや今だけや、今だけやから。絶対にこんな浮ついた気持ちになったらアカンと、言い聞かせてしまいます。


まぁ、それは、たぶん、ダンジョン出てるメンバーも全員そうです。

みんな冬の時代越えてきました。んで、今、スポットが当たったからといって、調子乗ってるやつなんて1人もいません。みんな危機感を、危機感をちゃんと感じながらやってます。

 

でも、そんぐらい、やっぱしこの、フリースタイルやバトルってのが魅力的なのは、やっぱしそんなラッパーの生き様同士でぶつかるからです。それがやっぱ世の中に伝わったというのは、そこは嬉しい半面もある。

でも、このブームにやっぱり浮かれずに、俺たちが、やることは、いたってシンプル。

ブームが来てもブームが去っても、いいラップ作って、いいライブして、俺らがおもろいと思うことをやり続けるだけです。

 

だから、急に来た人、急に振り返った大人の人、俺(の周りに)いっぱいいますけど、一番大事にしたいのは、相方やったり、すごい身近におる仲間やったり、大切な人やったり、こうやって観に来てくれてるお客さんやったり、そういう生でしか体感できへんようなことを大事にしていきたいと思ってます。

 

そんな悩みとか葛藤とか、自分の信念の中で、こういう曲作りました。Creepy Nuts最後の曲です。今、このブームの中で、俺がどういう風に思っているか、そういう曲です。「未来予想図」。


Creepy Nuts(R-指定&DJ松永) / 未来予想図 【Lyric Video】

 

2016年は空前のフリースタイル、日本語ラップブームの年だったのは明白です。

2015年にスタートした「フリースタイルダンジョン」が火付け役となり、どんどんブームは加速。R-指定が言うとおり、雑誌もテレビ番組もCMも、果ては東京都選挙管理委員会「TOHYO都」なんてイベントまで開催されて(しかも新宿駅前で2DAYS)、日本語ラップ好きとしては感慨深い1年だったと思っています。

でも、ブームというのはいずれ下火になるもの。当然アーティストたちも、いろんなインタビューやMCで、現在のシーンについて考えを述べています。

 


夜を使いはたして feat. PUNPEE -STUTS - Pushin' Release Party

 

これは、昨年6月にKATAで行われた、MPCプレイヤーのSTUTSのデビューアルバム「Pushin’ 」リリースパーティーでの一幕。宇多田ヒカルのリミックスを手がけて、今や世界的な(?)トラックメイカーとなったPUNPEEが客演している「夜を使いはたして」という曲の映像です。

4分10秒くらいから次のようにPUNPEEが喋りだします。

長い夜の話と見せかけて、ヒップホップの不遇の時代を、これから夜明けってそういう曲なの。そういうつもりで聴いて(?)くれるとうれしい。

シーンがデカくなりそうだけど、今少しイケそうだけど、このままでいいのかな?とか、そういう曲。

だから少し寂しいよって、そういう曲です。 

とてつもない勢いで祭り上げられているアーティストも、むしろ、その筆頭にいる人たちだからこそ、単純に喜んでいるわけではないんですよね…。

 

この「夜を使いはたして」でのPUNPEEの語りは、音源からは到底察することのできない背景をライブで吐露した形ですが、「未来予想図」は、誰が聴いても明らかな日本語ラップブームに対する危機感が込められています。

 

Creepy Nutsの1stシングルの「刹那」も近い心境の曲ではあるのですが、これはフリースタイルダンジョンが始まる前の曲だし、どちらかというと、フリースタイルラップバトルの全国大会で優勝したクラスのラッパーなら、その後のバトルで当てはまるような、己との戦いの曲かなと。

そんな「刹那」もそうだし、Creepy Nutsの前作『たりないふたり』収録の「みんなちがって、みんないい。」もそうなんですが、どこかほかのラッパーを皮肉るようなリリックがあるのに「未来予想図」にはない。

フリースタイルラップバトルの頂点に立ち、「フリースタイルダンジョン」のモンスターであるR-指定。周りが文句言えないほどに、卓越したスキルで認められているラッパーとなった今の彼だからこそ歌える、生々しい感情が詰まった1曲だと思います。

(明確な敵というかがいなくなって内向きの戦いになる暗い感じは、個人的にアメコミ映画の2作目っぽい印象です)

 

冒頭のMCが始まるまで限りなくキャッチーで、どんな人でも楽しめるライブを展開しながらも、最後にこれをやってステージから去っていくCreepy Nutsに、思いっきり中指を立てられたような気がしました。

 

自分のようなにわか日本語ラップ好きとしては喜ぶべきことに、盛り上がり続けている日本語ラップシーンですが、今年はどうなることやら…。本気でYouTubeでひたすら動画を観てる場合じゃないんですよね。音源買ったりイベント行ってグッズ買ったりしないと、自分の好きなアーティストが誰もいなくなっちゃうかもしれん。

ただ、どんな未来を迎えるとしても、「未来予想図」という曲は、何年後かに日本語ラップ史や音楽史にとって、重要な意義を持つ曲になるんじゃないかなと勝手に思っています。

 

助演男優賞

助演男優賞

 

今日のBGM:Creepy Nuts「未来予想図」

 

それでは、またの日まで。